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高ひき

冴えない高校生たちがワイワイ繰り広げる基本ほのぼのたまに鬱やんわり女性向け青春?ストーリー

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「あっねぇ一年生、そこの一年生」
 ――何故だ。
「待ってよー君だって君、そこの背の高い君!」
 ――何故。全く解せない。何故分かってしまうんだ。
「君さぁ、部活何入るか決めたりしてる? 男子バレーとか興味ない? 背高いし向いてると思うよ? 今日の放課後、時間あったりする?」
 ――どうして見ず知らずの俺が一年だって確信もって話してくるんだコノヤロウ!
 鬼の剣幕で振り返った――つもりだった河合啓志は、目の前の体格のいい上級生ににへらと笑みを浮かべると、押し付けられた半ピラをされるがままに受け取ってしまった。


――――美術室のあの子


「そりゃあ、だって、河合くんいっつもキョロキョロしてるもん」
 疑問をぶつけるなり簡潔に答えを提示した笠原燈月に、啓志は掴んでいたウインナーをぽろりと落としてしまった。
「え、なんか関係ある? それ」
「あるよー」
「それくらい常に不安げな顔してれば、お前が一年なことくらい俺だって分かる」
 いつも黙々と箸を進める鈴鹿賢一までもに追撃されれば、返す言葉もない。確かに、と啓志は肩を落とした。……そうであれば俺はこの先、二年生になっても尚部活勧誘を受け続けるに違いない。
 入学してから五日目の昼、通常授業が始まってから数えても早くも三回目となる昼休憩。教室の真ん中最前列の賢一の席に椅子を寄せ、三人で昼飯を済ませることがなんとなく定例となり始めて、啓志は僅かにも日々の生活に安心感を覚えつつあった。なのにもかかわらず傍目には、自分は未だに挙動不審キャラを脱却できていないらしい。
 落胆気味に弁当へと目を落とす啓志の視界の中に、するりと人の手が入り込んだ。
「あっ」
 言う間に綺麗な焼き色の卵焼きは弁当箱から摘み出されて、自然な流れで右横の男の口の中へ放り込まれた。ちょっとォ、と抗議の声を上げても、笠原はニィと笑うばかりで取り合わない。その左の手のひらには、ここ三日代わり映えのしないメロンパンが握られている。
「んで、バレー部行くの?」
「あ、いや……誘い受けたのバレー部だけじゃなくてさ、実は」
「ほう?」笠原はからかうみたいに相槌を打つ。
「ハンドボールとかバドミントンとか……あとはバスケ」
「おぉっ、俺男バスだったよ、中学ン時」
 身を乗り出した笠原に某有名バスケ漫画のイラストがでーんと描かれたチラシを手渡すと、啓志はバレー部のそれへと目を落とした。確かに身長だけは高めであるとは言え、こんなにも気が弱そうで明らかに文系顔な自分の元にもこんなビラが舞い込んでくるもんだなぁ、と思うとなんだか妙な哀愁を感じる。クラスに馴染めるかどうかが啓志の中で最大で唯一の問題点だったのであって、どの部活に入るかだなんて浮かれたことは、そういえばあまり考えたこともなかった。
 イチ高ってバスケ強いんだっけ、という笠原の質問に答えられる者は、このメンバーの中にはいない。鈴鹿なんかチラシに見向きもせず、相も変わらず口だけもぐもぐ淡々と動かしている。
「笠原くんバスケ続けるの?」
「やだよ、あれめっちゃきついし。の割に身長伸びなかったし」
「あ、あぁ。なるほど……」
「河合くんはなんか部活入ろうと思ってた? てか、なんか入ろうと思ってる?」
 啓志は曖昧に笑って首をかしげた。
「帰宅部……」
 らしいな、とでも思ったのだろうか、鈴鹿がひとりでに口の端を上げたのが妙に腹立たしい。
「一応聞くけど、鈴鹿くんは?」
「週六で塾だ」
「お、おぉう」
 鈴鹿の即答にちょっと気圧されている笠原を尻目に、啓志は今日貰ったいくつかのチラシをぱらぱらと眺めてみる。書道。弓道。天文部っていうのはちょっと俺好みかも、でも活動してるんだろうか。あとは……吹奏楽。新入生歓迎行事の一環として行われた部活動紹介で煌びやかなステージを披露していた吹奏楽の女の子たちのことを、啓志は若干眩しい気持ちで思い出す。他にはどんなのがあったっけ。なぜかコント紛いのことをしていたラグビー部。なぜか整列して校歌斉唱して礼して帰った硬式野球部……。
「せっかくだし、今日どっか見学行かない?」
 暇だし、と笠原は付け加えた。鈴鹿は目を合わせることもなく無表情に首を振った。
「河合くんは?」
「え、う、うーん」俺みたいな冴えない男よりも、君には他に誘える人がいるのでは……?
「いこーよどうせ暇っしょー?」
「まぁ暇だけどさ」
「よし決まり! じゃあどこにしよっか」
 出会って幾ばくもない他人の放課後を『暇』と決めつける図々しさも、次々飛んでくる奔放な発言と人懐っこい笑顔をもって許さざるを得なくなってしまう。ちょっと反則だ、なぜか憎めないけどな、と啓志がその人柄を考察している間に、笠原は啓志の手元から例のチラシたちをひょいっと取り上げてしまった。それから、自分が見ていた分とそれらを混ぜ、裏返しにした。そしてそれを鈴鹿の前へと提示した。
「さぁ、鈴鹿くん一枚引くんだ」
 見学に行く部活をくじ引きで決めるらしい――まぁ別に特別興味がある部活があるわけではなかったからいいんだけど。紙の色や、インクの透ける感じで啓志にはどれがどの部活なのか一目瞭然なのであるが、今までチラシにノータッチだった鈴鹿は一瞬憮然とした表情を浮かべると、呆れた、という雰囲気を醸しながらも中から一枚選び抜いた。





 ――放課後。
 ホームルーム終了と同時に通学鞄を担いで颯爽と教室を出て行った鈴鹿賢一は置いといて、二人は彼のドローしたオレンジ色のチラシを手に見学へと向かうことにした。
 放課の初々しい余韻の残る廊下の真ん中を、二人はきょろきょろと視線を泳がせながら闊歩する。屋外の吹きっさらしの赤く錆びててちょっと怖い螺旋階段をとんとん降りる。目的の教室は同じ校舎の二階の、西側の一角にあるらしい。オレンジのチラシの情報だ。
 東西に伸びる南校舎の南側には(他と比べれば別段そうでもないのだけれど)中学校よりもうーんと広く感じるグラウンドがあって(それがAグラウンドで、北側にはBグラウンドまであるのだというのだから高校は凄い!)、いろんな服装をした生徒が駆け巡るその白けた黄土色の広がる向こうには、もくもくと山並みがせりあがっている。桜がきれいだ。それをよそ見していたから、突然立ち止まった笠原の背中に河合はぶつかりそうになった。
 くしゃっとした手元のオレンジの、カラフルに彩られた大きな見出しと、頭上に張り出す教室名を示すプレートとを見比べる。笠原はひとりでに呟いた。
「ここかぁ」
 美術室――そう書かれた教室の引き戸のすりガラスの向こうは、しかし、自然光だけに満ちているらしい薄暗い空間となっている。
「……今日やってないのかな?」
 ぽつりと呟くと、かもねぇ、と笠原も呑気に同意する。教室の中に、人影らしい動きは見えない。美術部の宣伝のビラの中にはイケメンのアニメキャラが描かれているだけで、活動日が限られている、と言った情報は何ひとつ示されていないが……。
 やってないのかぁ、惜しいなァ、と何度も口にしながら、そこの栗毛は誰もいない美術室をすりガラス越しにまじまじと覗き込んでいる。引き戸に手をかけてちょっと力を加えてみるも、鍵が掛かっているみたいだ。ああいうのあるんだろうね、ホラ、石膏の人間の像とかさ。とりとめのない彼のお話に、あーあるだろうねぇとなんとなく返しながら、啓志はAグラウンドを覗き込んだ。端っこのほうにバレーボールコートらしいものが見えて、そこに米粒みたいでも明らかに屈強そうな男どもがぽつぽつと集まってきている。
「あっ、来る時間早かったって可能性もあるか」
 いつの間にか横に並んでいた笠原の言葉に、そうかもね、と啓志はふんわり同意する。
 じゃーちょっと待ってみる? 俺いまのうちにトイレ行ってくるわー、と言って、返事も待たずに鞄をどしゃんとそこに下ろすと、燈月はちょろちょろと駆けてってしまった。北校舎(まだあまり立ち入る用事もないけれど)と比べるとかなりのぼろの南校舎では、階ごとにトイレの男女が分かれていて、でも確か男子トイレは二階と四階。すぐに帰ってくるだろう。
 バレー部らしき人々を見ながら、あぁいう仲間に自分がなってるとこは想像できなくて、でも女子バレーとふんだんに絡むことができるのであるならちょっと考えてみてもいいかも……と啓志はぼんやり妄想する。その甘すぎる考えは、けれども溜息と共に体の中から抜けてしまった。バレーやってるような気の強そうな女の子なんて、そもそも自分のことなんか相手にしてくれるはずもない。
 中学の時は美術部で、あんまり大きい声で言いたいことではないのだけれど、絵を描くのは好きだった。でもあの部活は女子ばっかりでなんだか陰湿な面もあって顧問と馬も合わなくて結局幽霊部員だったし、殆んど帰宅部と言って差し支えない。啓志はもう一度美術室を仰ぎ見る。流れに任せて見学に来たけど、あの鬱々とした雰囲気の中に、再び戻ってみる気はその時点ではなかったのだ。
 そこで、あれ、と啓志は目を凝らす。
 ――すりガラスの向こうで、ひらりと影が動いた。

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